『「私」の国分一太郎研究』は、国分一太郎の生きた時代とその思想の研究であると同時に、「私」自身の自己史でもある。

『第一回作文教育協議会(中津川大会)へ到る道』(3)

『第一回作文教育協議会(中津川大会)へ到る道』 (3)

2 「月刊 作文研究」No.2(1951年2月号)を読む
(1)「月刊 作文研究」No.2(資料8)が、年が明けた1951年2月1日に発行となっている。創刊号発行(1950年11月1日)から、3ヶ月たっての発行である。 

「編集後記」(資料11-右-)でも、「事務局の手不足、諸般の事情」で遅れたことが書かれている。

△「第二号をおとどけします。予定ではすでに四号をおとどけするところでしたが、事務局の手不足、諸般の事情でおくれました。この号からは、順調におとどけできます。同人費を送つても雑誌がこないという不備や不安をたくさんのかたになげた点おわびします。…

(2)No.2でも、あいかわらず、「作品研究」16ページを、さらに、「全日本 文集展望」(4ページ)で16の文集についての評を、来栖が一人で書いている。

(3)『リンゴの歌―子供と教師の「作文ものしり帳」―』という題で、国分一太郎の論文が始めて登場する。(資料9~10)

①とても、平易な文章である。「リンゴの歌」という題名が、楽しい。
参考までに、この時、国分一太郎は、40歳。

②「ありのままのこと(みたこと、したこと、きいたこと)」を「ありのままに、あったように」「くわしく」書いていく、そういう文の書き方をおぼえていくことが、ものの見方や考え方をみがいていくことにつながるのだ、として、六年生の作品「きょうだい」がとりあげられている。

すばらしい作品である。
・「いまから十五年もまえの、東北の六年生がかいたもの」という紹介。国分一太郎がまだ長瀞小学校で教師を続けていた昭和11年ころの作品ということになる。

・ひとつのリンゴを、うれしそうにかわるがわるかじりあっている「二年の三郎」と「らいねん学校にいくミヨ子」の姿が、とてもやさしい目で、描かれている。

きょうだい
 ぼくが、便所で、うんこをしていたら、井戸ばたのところで、と
なりの三郎とミヨ子がリンゴをくっているのが、かベのくずれたと
ころから見えた。

 ふたりにひとつだけ、もらったらしくて、かわるがわる、ひと口
ずつかじっている。二年の三郎が、あごがはずれるほど大きか口を
ひらいてパクッとかじると、
「やだ、やだ。」らいねん学校にいくミヨ子が、からだをよこにふ
って、顔をしかめている。大いそぎで三郎の手から、リンゴをもぎ
とって、こんどは、りょう手をかかえて、じぶんの口のところにも
っていく。なるべく大きくかじろうとして、かじるまえに、パクリ
と口をあけてから、まるで、ぶっつけるようにリンゴを口さきにも
っていく。パクリ。すると、こんどは口のなかのリンゴを、もうの
みこんでしまった三郎が「はやく」といって、ミヨ子のもってるの
をとろうとする。かわるがわる、そんなことをして、ひと口ずつか
じっている。「うまいね、ミヨ子。」「うん、あんちゃ。」

 いかにもうれしそうだ。となりの家の人は、みんなたんぼにいっ
たのだろう。小屋のほうから、はらのへったらしいプタのなく声が
やかましくきこえてくる。井戸ばたには、よい日がてってくる。赤
かったりンゴが、だんだん、白いところだけになる。だんだん、ち
いさくなる。そのうち 三郎が、「もうひと口だけ」こういって、
ミヨ子から、とったと思ったら、ムニャムニャ声で、「ひと口ー」
といっている。見ると、三郎はちいさくなったリンゴを、ぜんぶ口
の中にほおりこんでほっペたを、ぷくっとふくらましている。ミヨ
子が、「やだ――、ずるすけ――」泣き声をだしはじめた。すると
三郎が、ペロリと、リンゴのかけらを、口からだして「やくど(わ
ざと)したんだ」わらいながら、こんどは、歯のさきで、ほんのす
こしかじって、「はなくそころ(ぐらい)な」といって、かえして
やった。ミヨ子がにっこりして、よだれだらけのリンゴをうけとっ
て、またパクリとかじって、「ほら、こんどはあんちゃだ」とまた
三郎にかえしてよこす。どちらも、にこにこ顔だ。

 ぼくはふんばるのをわすれて、それをじっと見ていた。するとな
んだかひとりでにわらいたくなってきた。そして(ぼくにもきょう
だいがあればよいなあ〉と思った。

 そして、国分一太郎の説明が続く。

この「きょうだい」という作文などは、ありのままのことを、ありのままに、よくかいていると思います。こういうかきかたをしていれば、しぜんと、物のみかたや、考えかたも、しっかりしたものになるわけです。

*こんな作品を書く子がいたんだなあと驚く。同時に、こういう作品を残して持っている国分一太郎もすごいなあと思う。

(4)「編集後記」で《全国作文指導者におくる三名著!》という記事。 (資料11-右-)
寒川道夫、吉田瑞穂、国分一太郎の著書が紹介されている。

△「大関松三郎詩集・山芋(さがわ・みちお編)」
△「小学生・詩の導き方」(吉田瑞穂)
△「新しい綴方教室」(国分一太郎著)

イメージ作りのため、年齢を記しておく。
・寒川道夫(42歳)  ・吉田瑞穂(54歳)  ・国分一太郎(40歳)
・ちなみに、来栖良夫(36歳)


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