『「私」の国分一太郎研究』は、国分一太郎の生きた時代とその思想の研究であると同時に、「私」自身の自己史でもある。

『画文集 昭和の記録』より「夏」の部の分析

『画文集 昭和の記録』より「夏」の部の分析

第522回 豊島作文の会 1月例会 
『画文集 昭和の記録』より「夏」の部の分析
                    2018年1月20日(土) 工藤  哲

◆全体を見ていて気がついた。
季節が「夏」のためか、遊びの想画や、仕事・手伝いとは関係のない想画がいくつも見られる。…『飛び込み』『ボンオドリ』(P24)、『瓜売り』『下濠』(P25)、『ざっこせめ』(P29、30、)『遊び』(P32)、『蛍せめ』『キャラメルを売る店』(P33)、『釣り』(P38)等々。四季の中で、この季節(夏)は、子どもたちにとって楽しみの多い時期だったのではないかと思う。

◆最初のページから。
①『飛び込み』は「二ノ堀」だろうか。学校からも近く、ここは夏の一番の楽しみの場所だったのかなと思う。『瓜売り』が訪ねてきている想画。米作りや養蚕で忙しい地域だから、近郷でとれた野菜・果物等を売りに来るのだろう。
②『夏休み・日記帳』の作品…おばあさんが梨や瓜を買って帰ってきた。その時の弟たち(まんぞう、みつる)や自分、おばあさんの様子などが書かれている。生き生きしていて面白い。最後の6行、誰の行動なのかはっきりしない。
③『かわぐつ』…かわぐつをはいていると/すこしおもたい/少しこわくなる/千里がすいとうをさげて/みに来た、とある。 うれしいといったような言葉は一切使っていないのだがしっかりうれしさ(鼻高々?)が伝わってくるから可笑しい。

(1)米作りに関係した作品。
①想画では、『田の草とり』が圧倒的に多い(P44、45、46、47、50、51)。収穫を待つ時期の大切な作業なのだろう。次が『草刈り』(P44、46)。田んぼの際とかあぜ道で草刈りをしているように見える。刈り取った草を束ねているところを見ると、これは牛や馬などのエサになるのかも知れない。
②綴方(詩)では、『お母さん』(P27)がいい。 …「ともて」というのは「家から離れた田畑」とのこと。ちいさな「ふみ子」におっぱいをのませるために遠くの田んぼから戻ってきたということなのだろうか。乳をのませたあと、また「ともて」にもどっていって仕事をするのだろうか。
③『水ひき』(P45)は、苗(稲)に必要な水やりに関する大人たちの悩みのようなものを感じる…田んぼに引く水に関して、争いまでいかないものの、自分の田に有利に水を入れようとするような輩はどこにでもいるということか。

(2)桑や蚕、繭に関するもの。
①『おかまにねた時』…お蚕様優先、「蚕おいていてねるとこない」とあるが、蚕に桑を食べさせるために、家じゅう蚕の棚(?)だらけで寝る場所がないということか。時期によってどこの家でもこういう状況があったのだろう。「おかまにねて朝早く/おきらんなね しっぱいした」というのがよく分からない。

②桑に関係した仕事の想画『実生桑つみ』(P27)、『桑こき』(P29、36、51)、『桑つけ』、『くわ葉つみ』(P36)…ほぼ桑(桑の葉)を集める作業、こんなにもある。繭に関係した想画『まゆむき』『繭もぎ』(P28)…これは、どういう仕事なのかよく分からない。50ページに『糸とり』という想画があるが、繭から糸をとっているところなのだろうか?

③『まぶし織り』(P37)、『まぶしおり』(P47)というのは、何のことなのか分からなかったが、次の作品に関係があった。
『しけあげの夜』(P43)…方言集によれば、「シケ」というのは繭をつくる準備のできた、成長した蚕という意味があるようだ。繭つくりに入りそうな、成長した蚕を繭をつくる場所の「蔟(まぶし)」に移す作業のことを「しけあげ」「お蚕上げ」というようである。「まぶし」も自分たちで織る(作る)ようだ。

④「長瀞かるた(一)(ニ)」(P22、52)に次のような句が出ている。
・かいこのいるのは長とろ村 ・ねてはいられぬ桑こきだ ・車につんだ桑の山
・ふわりとやわらかなかいこ ・ねるひまもない蚕あつかい

『まゆ売り』(P29)、上の長瀞かるたを読みながらこの詩を読むと、なんだか身につまされてくる。落胆とまではいかないが、そんな印象を受ける詩だ。…父親、自分、与六の三人でまゆを売りに行ってきたのだが、「まゆがやすくて/三円ぐらいでうって来た」とある。当時のお金の価値が分からないのでなんともいえないのだが、苦労して育てあげた繭が「三円」では、「やすい」のだろう。ずいぶん早くから「まゆ売り」に出かけていたのか。帰ると家族はご飯を食べずに待っていたとある。家族の期待が感じられて何だか寂しくなってしまう。

(3)動物(牛、馬、ウサギ等)と一緒の暮らし。
①『とっきび』(P26)、エサ(飼料)用に家の近くにトウモロコシの畑を作っているところが多いようだ。牛にエサをやるように言われたのだろう。この子は「とっきびかき」をしてきたのだが、「まちがって すなとっきびかいて 馬にくわせた」「馬は大きいはで うまそうにくっている。」のだが「ないだすなとっきびかいて」とおじいさんにしかられてしまう。「すなとっきび」というのは実がしっかり詰まっていないとうきびをさすようだ。しかられながらも「よいとっきびをあぶっ」て「あたたかいとっきびをもって あそびに」いく作者。「とっきびかき」の仕事(手伝い)は、子どもたちにとって駄賃つきの楽しみになっていたようである。

②牛を取り上げた三つの作品『牛の子』(P38)、『牛あらい』(P39)、『牛』(P50)とあるのだが、この三つの中では私は『牛』が気に入った。最初の1行目の「家からは走ってきた」のは「僕」なのか「牛」なのかが分からないので教えてほしい。この詩、「僕」と「牛」が本気で対峙している感じが伝わってきてすごく面白いと思った。

③P44の『鯉』は、尋3(もんぺの弟3)の子どもの詩だが、目の前で進行していることがらをそのまま写し出しているような書き方で書いている。「(鯉)ばたばたはねる」「いのちがいたましいからはねるんだ」「おぢいさんにこなづちでひっぱたかれた」「なんぼか鯉はいたいだろう 「いのちがいたましいからはねるんだ」「おぢいさんにこなづちでひっぱたかれた」「なんぼか鯉はいたいだろう あばらあばらしている」「(はやしたら血で)まないたが赤くなる」「はやされてなべに入れられてもぴくぴくうごく」等。そして鯉の様子を見ながら思ったこと・感じたこともしっかり入れられている(波線の部分)。こういう今見ているような現在進行形的な詩の書き方ができていること、すごいなと思う。

④P47の『うさぎ』も面白い。うさぎを「中」からひっぱりだそうとしたら、「かえす(糞)が行列のように 黒くなってころころころがってきた」。うさぎをひっぱっているのは糞の掃除のためか。ウサギの糞も肥料になるのだろうか。そのうち、ふんばっているウサギにひっかかれてしまい、うさぎをなぐったらぽかっとあたたかかった」と、自分とウサギの行動、様子が中心の詩。
*「冬」の部に出ているのだが、P91の『兎殺し』、P96の『うさぎをたべたとき』の作品と比べて読んでみると、「生き物」に対する見方・対し方の違いが感じられて興味深いと思った。P119の『うさぎ』を読んで思ったのだが、うさぎは自分の家での食用になっただけでなく、食用・皮用として売られる「商品」でもあったのかもしれない。

(4)稲穂からとれる藁のこと。
①春から冬までのたくさんの想画、綴方(詩)作品を見ていくと、藁はさまざまに活用される大切な材料だったことが分かる。この夏の部では、『むしろばたき』(P32)、『フシ切り』(P48)の想画がある。『フシ切り』、これがどういう作業なのかはよく分からない。何のために、どのようなことをするのか知りたいと思う。

②詩には、『わらぶとん』(P33)がある。いつも「ぴったら」のわらぶとんをつかっていたのが、「今日」は新しくて、「高いわらぶとん」。「今日ばり高くて あんばいよくない」のだが「さむくなくて よいわらぶとんだな」。ちょっとあんばいがよくないところがあるけれど、新しいわらぶとん、やっぱりうれしいものなのだろう。

(5)いいなと思った詩、気に入った詩。
①『母の盆礼』(P35)、分かりにくいとことが二つほどある。「光男ばのせて行ってくれろは」、「「もう姉はまるで見わけられないほどだ」等。が、久しぶりに実家に帰ることができる母親のうれしそうな様子はしっかり書かれている。

②『かん拾い』(P41)、「これを売って錢をとる その錢で文集をつくる」という。文集作りにどのように役立てるのかはよく分からないが、もっといっぱい拾うぞという意気込みが伝わってきていいなと感じた。
私も小さいころ、友だちといっしょに似たようなことをよくやっていたのを覚えている。磁石をつかっていたのだったろうか。磁石にはつかないのだが、「あかがね」(銅)の値段が高いので、「あか(がね)」を見つけると大喜びしたのを覚えている。

◆最後に
 昭和の初期(昭和7年~10年)の農村の様子を知ることができて大変いい勉強ができたと思う。
 想画は生活の様子が分かりやすいし見ていてとても楽しい。しかし、言葉で生活への思いを書き綴った綴方(詩)の方に私は軍配を上げたい。いっしょうけんめい働く大人たち、それこそ朝から晩まで。夜ものんびりしているわけではなく灯りの下での作業がある。そのまわりでいろいろ立ちまわる子どもたちの姿。おじいさん、おばあさん、両親と子どもたちの交流の姿。子どもたちの心がしっかりと伝わってきてすごいなあと思う。国分一太郎の実践の素晴らしさを実感することができて良かったと思う。


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